025 – 恋の時間

ガラス張りのそのレストランは、どの角席にいても外から降り注ぐ光を浴びることができる。例え一杯のコーヒーを飲むにしてもそれは幸福な時間に思える。彼女はそう思ったに違いない。

だが、彼女は日光浴をせずにひたすらケータイを弄っていた。細胞のような、皮膚の一部となったケータイから彼女は目が離せない。メールがあってはすぐに返事を書いているし、メールが届かない間はずっとメールチェックを繰り返して指を動かしていた。

一方、外の通りを挟んで向こう側には大きな公園がある。寒いにもかかわらず、幸せが空気中に充満している。子どもたちや親子の笑い声が芝生にこぼれ落ちている。中にはペット連れの方もいらして公園は日光で輝かしい。

さっきのレストランにいた彼女はケータイとにらめっこで時にはニヤリと笑顔になったり時には落ち込んだりした様子で喜怒哀楽を短時間で繰り返して体験しているようだ。最後には溜息をこぼしながらケータイを閉じて目の前にあるドリンクを一気にストローで飲み干した。

と、そのときだ。

公園側に目を向けた彼女の視野に入ったのは、一匹の犬だった。悲しそうにこっちにも見つめている犬と目があった。

2秒の間があった。レジに急いで彼女は支払いを済ませ急ぎ足で犬のほうに向かった。

日光は寒い空気を通り抜けて地面まで降り注いでいた。

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